アメリカでは会計士の仕事はかなり幅広い

友人からのリクエストに基づき、この記事を書いています(こんな記事書いてください、というご要望はいつでも大歓迎です)。

しばらく前にこんなニュースが話題になったことを覚えていますか?

米アカデミー賞、集計担当したPwCが謝罪-作品賞の誤発表で引責

昨年のアカデミー賞で受賞作品が間違って発表されてしまったのは「会計士のせい」だった、
ということで話題になったものです。

このニュースを見た人の反応のほとんどは
「おいおい会計士ちゃんとやれよw」
…みたいなものだったでしょうが、中にはこんなことを思った人もいるのではないでしょうか。

え、会計士ってそんなこともやるの?

実は米国の会計士・あるいは会計事務所の業務は非常にバラエティに富んでいるのです。

珍しくだいぶ長い記事になったので、中見出しを挟みながら説明していきます。

 

1.法的な違い

まずはやや表面的ではありますが、日本と米国の会計周りの資格について整理しておきましょう。

日本では、
・会計=誰でもできるし、会計士や税理士が代理することも多い。
・監査=会計士しかできない。
・税務=誰でもできるが、代理業務は税理士しかできない。
という役割分担です。

日本では会計事務所というとほぼ独立している会計士、税理士の個人事務所を指すことが多く、
組織だった業務を行う場合には、
「監査法人(公認会計士を中心に組織化されたもの)」と
「税理士法人(税理士を中心に組織化されたもの)」という形で法的にも存在が分離されています。

これが米国では、「税理士」と「会計士」が分離されていないので
・会計=誰でもできるし、会計士が代理することも多い。
・監査=会計士しかできない。
・税務=誰でもできるし、会計士が代理することも多い。
・・・となっています。

そして、米国で会計事務所=Accounting Firmといえば、
DeloitteやEY、KPMG、そして先述のPwCといった「大手」のイメージがまず先行します。

・・・というのが、まぁ表面的な日米の違いでしょう。

2.風土的な違い

さて、ここからが本題。

日本でも米国でも、公認会計士が独占的にできる「監査業務」。
これについては、表面的には殆ど差がないのですが、その業務の幅に大きな違いがあります。

監査という仕事は、
法律の定めにしたがって行う法定監査
法律の定めはないが必要に応じて行う任意監査
という分類が可能です。

日本における法定監査は、
・金融商品取引法監査(いわゆる上場企業などに課される義務です)
・会社法監査(一定以上の規模の会社に課される義務です)
の2つがポピュラーです。
(ほかにも私立学校や政党などに対する法定監査などがありますがここでは説明を省略します)

そしてもう一つの特徴として、
法定監査以外の監査業務は「ほとんど行われない」ということが挙げられます。

日本では監査は「法律で決まっているから仕方なくやる」もの、というイメージが強いため、
どうしても必要最低限の監査のみで済ませよう、という思考が働きがちで、
監査報酬は安い方が好ましく、それゆえに厳しい価格競争が行われています。

いっぽう、訴訟社会のアメリカではその事情はだいぶ変わります。

当然、日本に似た法定監査の仕組みも存在しますが、
日本よりも、「任意監査」の比率が非常に高い。

・親会社からのリクエストに基づき、子会社の詳細な監査を行う
・融資している銀行からのリクエストに基づき、貸出先の監査を行う

こういった「自発的に監査をお願いする」ケースがかなりの数存在するのです。

アメリカでは、もしもの時の訴訟のリスクが高いため、
そのリスクを事前に解消するために、会計事務所に進んで高い報酬を支払う文化があります。
I(その代わり監査に不備があったら多額の賠償金を請求されます)

「訴訟のリスクを事前に解消する」という意味では、
アメリカの会計事務所は、会計監査に限らず、色々な業務の監査や保証業務を行っています。

日本でも「内部統制監査」といって、
不正や粉飾に繋がらないような業務の仕組みが構築・運用できているかという視点からの
監査が行われていますが、あくまでもそれは会計監査の存在が前提となるものです。

そうではなく、例えば
・新製品のゴルフボールは、従来品より飛距離が5%伸びた。そのことを会計事務所として証明してほしい。
こういう業務さえ、存在するそうです。

この保証があれば、
「新しいボールを買ったのに、飛距離が伸びないじゃないか!」
というクレームがあっても「それは貴方のスイングの問題です」ということになる。
訴訟(とそれに伴う風評被害)を予め回避するわけですね。

冒頭のアカデミー賞で、なぜPwCが集計業務を引き受けているかというと、
米映画界という巨大な利権で、得票数の操作が行われることがないように、
予めそのプロセスに第三者的な専門機関を介入させることでトラブルを回避する、
という目的が存在しているのです。

もちろん、
法定監査がアメリカの会計事務所の売上の大半を占めているのは変わりありませんが、
アメリカの公認会計士・会計事務所の業務は、
日本の監査法人のように「法律があるから存在する」というよりも、
「訴訟リスクがあるから存在する」と考えた方が自然ではないかと思います。

実際、アメリカでは有価証券法や証券取引所法が制定されるずっと前から、
英国から渡米してきた会計士(英国では「勅許会計士」と言います)が、
任意監査のマーケットで大活躍していた歴史があります。

訴訟リスクをビジネスチャンスとして捉えたとき、
「事前に当事者間の責任を分離することによって、そのリスクを回避する」
「訴訟が起こってしまった場合に、当事者間の責任を整理して解決に導く」
という2つの機会が存在するわけですが、

アメリカの公認会計士なり会計事務所は、
前者のビジネスチャンスに対してサービスを提供するのがミッション、
と言ってしまって差し支えないでしょう。

3.日本では今後どうなる?

日本では昨年ぐらいから、製造業による品質の偽装、検査プロセスの不備など、
会計領域以外での不祥事が目立っています。

それ以前にも、リコール隠しや賞味期限の偽装問題など、
「言われてみれば」不正というのは会計やお金に直接絡むものに限らず
色々なところに存在するわけです。

そんな世の中にあって、
「この会社は大丈夫です」と外部からお墨付きを与える存在は、
日本でもニーズが生まれてくるのかもしれません。

そしてそのニーズを掘り当てる存在は、
米国の会計事務所に相当する日本の監査法人・・・かというと、
近々、東芝の会計不正問題などを契機に業務量がひっ迫している監査法人が
そこまで精力的なマーケット開拓をするか?というと個人的には甚だ疑問。

むしろAIなどのテクノロジーを駆使した証明業務で
新たなニーズを切り拓くベンチャー(もちろんそこには会計士も参画するでしょう)が
登場するのではないか?と思っているところです。