前回記事の続きです。
・・・そんなわけで、自分自身がちょっとした苦学生の時期を過ごしていたわけですが、自分自身がしんどかった経験は、公認会計士の資格をとって安定した仕事につけたことで十分チャラになりました。
そういう意味では、「苦学生」という立場は非常につらかったものの、同時に、僕自身をどうにか大人にしてくれた仕組みが沢山存在していた、ということでもあり、とても感謝しています。
そんな僕が、ふたたび「教育と貧困」というものに直面したのが、会計士として、とある私立大学の監査に伺ったときのことでした。
原体験3 「教育と貧困の現実」の原体験
私立大学のビジネスモデル(ビジネスと言うのも語弊がありますが)はとてもシンプルで、
収入=学生(保護者)からの収入+文科省からの補助金
支出=教員職員の人件費をはじめとした様々な経費
・・・という構造です。
そのとき、自分が監査をしていたのは学生(保護者)からの収入をさす、「学生納付金」並びに関連する勘定科目でした。
学生納付金がしっかり支払われれば、当然現金・預金の金額がそのぶん増えますが、しっかり支払われなければ現金・預金が増えるはずもなく、かわりにいったん「未収入金」という債権が増えることになります。
この未収入金の金額を検証するときに、私が見たのが「学費分納・延納願」という書類でした。
要するに、保護者の方が「もう少しだけ学費の支払を待ってほしい」と懇願するための書類です。
- 母子家庭のため、収入が足りません。少しずつでも支払いますのでどうかお許しください
- 本人もアルバイトをしていますが、それを合わせても分割で支払うしかありません
- 勤め先が倒産してしまい、今失業保険で暮らしています
・・・そういった書類を何枚も、何枚も見ていく。
何とか学費を払って学業を続ける子もいれば、そのまま一定期間学費が支払われず「除籍処分」になる子もいました。
経済格差が、教育格差を生む。
教育格差が、経済格差を助長する。
その無情な仕組みを、僕は図らずも目の当たりにしたわけです。
根本的にこの仕組みを覆すには、教育のシステムそのものに手を入れる必要があることは疑いないところでしょう。いっぽうで、そういった教育格差・経済格差のサイクルを助長するひとつのファクターに「無知」が存在することもまた確かで、その無知の原因には、お金のリテラシーを正面から教えてこなかった日本の教育の現状があります。
「お金の教科書」という今回のプロジェクトの制作物は、もちろん正規の意味で学校に採用される教科書とは意味合いが異なるわけですが、教育の現場でそれが当たり前のように教えられる社会に、一日も早く、なってほしいという願いをこめてもいます。