日本人は勤勉だ、とよく言われます。海外の人と比べたことがないので定かではありませんが、確かに身の回りにはまじめで頑張り屋な人が多いなぁ、という実感はあります。
が、「真面目」「勤勉」こういう気質が本当に長所なのかはよくわからない…というのが、特にここ1~2年くらいの自分自身の考えです。
公認会計士の試験に合格したあと、1~2年間チューターとして予備校に出向いていた時期がありました。
チューターの役割は、
- 会計士を目指して勉強している人へのアドバイス
- 会計士講座を受講しようか迷っている人へのガイダンス
の2つだったのですが、特に後者の人たちによく聞かれたのが
1日、何時間勉強すればいいですか
でした。
当時、自分は「週に最低40時間、可能なら50時間確保してください」と伝えていましたが、
合格体験記のようなものを見ると1日の平均勉強時間で「10時間」と書いている人が多く、
多くの人はそれを目安にしていただろうと思います。
ここで注目してほしいのは、アドバイスしたのはあくまでも「確保してください」ということであって、
- 週に50時間勉強しないと絶対ダメ、なんて言ってないし、
- 週に50時間勉強すれば絶対に受かる、とも言ってない
・・・のです。
しかし、多くの人はこの「50時間」という数字が独り歩きして、
どうせ守られるはずのない時間割表を自分で作ってみたり、
酷い場合には、50時間勉強するということが目的化して
色とりどりのサブノートを作っちゃったり、
おかしな方向に進んでいってしまう。
ちなみに自分自身の話をすれば、
一番頑張っていた時期は、確かに毎日10時間くらいは勉強していましたが、
それは、「勉強しなければならないことを潰しこんでいたらそれくらい時間がかかった」だけで、
10時間勉強するぞ!と思ったことはありません。
逆に、試験範囲をそれなりの網羅性でインプットできた、と実感した頃からは、
勉強時間は3~4時間しかかけていませんでした。
なぜかというと、それくらいで試験の全範囲を総復習できるくらいになっていたし、
10時間やっていたころも、その状態を目指してインプットを続けていたからです。
似たような「量・至上主義」が、社会人の間でもたくさん聞かれます。
- スピーチコンテストに出た直後は「何回くらいリハーサルしましたか?」
と色々な人から聞かれましたが、リハーサルは多ければいいというものではないと
自分も思っているし、自分が教わったスピーカーの方たちも同様のことを言っていました。 - 営業成績を挙げるための行動目標にそって、所定の件数を訪問することが目的化し、
一件あたりのセッション時間が短くなってしまったり、1件ごとの準備に十分な時間がとれない人も多くいます。
さらに言えばそういった風潮を営業のリーダーや部長さんが助長しているケースもあります。
「営業は確率の仕事だ。だから件数を増やせば受注も増える」という具合です。
件数を増やすことのほうが、確率を増すことよりも行動の取り方として単純でわかりやすい=管理しやすい。
でも、そのせいで確率を損なうケースも多くあるわけです。 - 「10000時間の法則」を信じて特定の道のプロを目指して頑張ることを否定するつもりはありませんが、
プロフェッショナルと呼ばれる人たちの強みの源泉は10000時間という量ではなく、
「フォームチェックをして正しい姿勢をとるためのメニューを考える」とか、
「自分の作ったものをためらわずに全否定して1から作り直す」とか、
そういった「質」の部分にあることが多いように思います。
つまり「勤勉」な人の多くは「一生懸命」を「がむしゃら」とはき違えている。
無駄に努力をしなくていいように、「やり方を検証する」というプロセスが抜けていることが多いわけです。
将棋の世界では、強くなるための方法は
「良い師について学ぶこと」「一局ごとに内容を振り返って次に生かすこと」であり、
それ自体は今でも変わらないと思いますが、最近の若手棋士の多くにとっては、
「良い師=ソフト」であり「振り返り」にもソフトの評価値や推奨手を参考にしています。
結果、2017年度の7大タイトル(8つ目に加わった叡王は一旦除く)のホルダーは
名人=佐藤天彦(29歳)
竜王・棋聖=羽生善治(47歳)
王位=菅井竜也(25歳)
王座=中村太一(29歳)
王将=久保利明(42歳)…現在、豊島将之(27歳)と対局中
棋王=渡辺明(33歳)…現在、永瀬拓矢(25歳)と対局中
プロとしての通算対局数が決して多くない20代の棋士がどんどん台頭してきています。
もちろん、台頭してきた若手はソフトを活用したうえで
「真面目」「勤勉」に努力をしているわけです。
つまり真面目・勤勉という気質は、
「それ単独では」長所にはなり得ず、
効率的・効果的なプロセスに組み合わせることで初めて長所になり、
それを怠れば実は短所になる可能性すらある性質
だということです。
この傾向は、AIをはじめとした、
人間にとって面倒な反復作業を超高スピードでやってくれる存在がいることで、
なおさら色濃くなっています。
今いる時代は「頑張る前にやることがある」時代で、
頑張らなければいけない時代は、もうすぐ終わる。